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2016年6月26日 (日)

平成28年度司法書士会東濃支部第1回研修会

6月25日(土)東濃支部の第1回研修会がありました。
内容は、下記のとおりです。
第1部 司法書士倫理(グループ討論形式)      
第2部 東濃司法書士法科学院 第3講
   (JR東海認知症事故訴訟を題材に法の解釈・運用について考える。)      
第3部 商業登記規則改正
    10月1日施行の商業登記規則改正
   (株主リストの添付について)
私は、例のごとく、東濃司法書士法科学院(架空)の教授(自称)として、第2部の講義を行いました。
これは、今年の3月1日に最高裁の判決があったJR東海認知症事故訴訟の第1審地裁、2審高裁、3審最高裁の各判決と認定された事実をもとに、今回もソクラテスメソッド(問答方式)によるゼミです。

 配
布資料には、書かなかった私が最後にまとめとして、お話ししたものをここに書いておきます。



 というわけで、地裁では、妻と長男の二人に対して、根拠条文が異なりますが、満額の請求が認められました。
高裁では、妻に対してのみ、半額の請求が認められました。
最高裁では、JRの請求は全部棄却されました。
 さて、このようになぜ同一の事件についての裁判所の判断が審級の進むにつれて一転二転するのか?
 しかも、同じ条文の適用について判断しているにもかかわらず。
 毛沢東が言ったように「法律は伸び縮みする物差し」なのか?
中華人民共和国は、法治国家ではない。中国共産党の一党独裁の人治国家である。
 日本のような法治国家で、法律が伸び縮みしたら、大問題である。
「法律は伸び縮みしない」と私は考える。
 では、何が伸び縮みしているのか?
考えてみてください。
 要件事実なのか?事実の方が伸び縮みしているのか?
要件事実や構成要件該当性だけを判断するのなら、コンピュータが裁判した方がましだ。
神様が裁判した方がもっといいと考えている人がいるかもしれないが、神様は人間の法律を知らない。
なぜなら、神様にとって、例えば、「人を殺したい」と「思う」だけでも、罪である。しかし、人間の法律では、「思う」だけでは、罪にはならない。実行して初めて犯罪となるので、神様に人間は裁けない。それに民法714条など神様はご存知ない。
 では、なぜ、今でもたぶんこれから先も、コンピュータではなく、人が人を裁くのか?
 伸び縮みしている、変化しているのは、法律ではなく、事実と法律を見ている裁判官の心象ではないか。
  私は、この最高裁判決を知ったとき、落語「徂徠豆腐」の中で、荻生徂徠が若い頃お世話になった豆腐屋の上総屋七兵衛さんに言った、「法を枉(ま)げずに法に情けを注ぐ。」という言葉を思い出しました。
 荻生徂徠は、五代将軍綱吉の側用人柳沢吉保に見いだされた儒学者ですが、綱吉に学問を教えるとともに柳沢吉保の政治顧問という立場でもありました。
 ちょうど将軍綱吉の治世に「赤穂浪士の討ち入り事件」が起こります。
 綱吉は、先の「松の廊下」といい、今回の「吉良邸討ち入り」といい、「二度も余の顔に泥を塗るか。即刻処刑せよ。」と激怒していますが、世論は、「忠義の侍よ。武士の鑑よ。」と褒めそやしているので、幕閣としては処分に困ってしまいます。
そこで、側用人柳沢吉保は、自分のブレーンを集めて意見を聞きます。
林大学頭、室鳩巣など多数意見は、賛美助命説でしたが、荻生徂徠ただ一人切腹説を唱えます。
その時、荻生徂徠は、何と言ったかというと、
「義は己を潔くするの道にして法は天下の規矩也。礼を以て心を制し義を以て事を制す、今四十六士、其の主の為に讐を報ずるは、是侍たる者の恥を知る也。己を潔くする道にして其の事は義なりと雖も、其の党に限る事なれば畢竟は私の論也。其の所以のものは、元是長矩、殿中を憚らず其の罪に処せられしを、またぞろ吉良氏を以て仇と為し、公儀の免許もなきに騒動を企てる事、法に於いて許さざる所也。今四十六士の罪を決せしめ、侍の礼を以て切腹に処せらるるものならば、上杉家の願も空しからずして、彼等が忠義を軽せざるの道理、尤も公論と云ふべし。若し私論を以て公論を害せば、此れ以後天下の法は立つべからず」
これを、落語ベースで私流に解釈しますと、こうなります。
浅野内匠頭が、殿中において、刀を抜き、刃傷事件をおこした。これは明らかに犯罪。「殿中において、鯉口三寸切れば、おのが身は切腹、お家は断絶。」は、武家社会の不文律。そして浅野は、即刻、切腹。これは当然のこと。
「吉良がお咎めなしとは、おかしい。喧嘩両成敗であるべき。」との考えもあるが、吉良は、刀も抜いていないし、立ち向かってもいない。ただ、切られてその場から去っただけだから、喧嘩にもなっていない。
今でいうなら、霞が関の中央官庁での傷害、殺人未遂事件が起こったようなものです。
家臣が殿の敵討ちをしたいという忠義は立派だが、所詮武士としての個人的価値観に基づくものに過ぎない。天下の法は、許可無き仇討ちは禁止、徒党を組むことも禁止していることも承知の上の犯行。
今で言えば、幕府要人を狙ったテロ行為です。しかも、政治の中心地である将軍家お膝元の江戸で、凶器準備集合罪、騒乱罪のテロリストたちです。
これを、許すわけにはいかない。もし、今、世論に迎合して、これを許してしまえば、今後天下は、法治国家としての体をなさなくなる。
また、仮に、四十七士が助命され、この先、生き永らえたといたしましょう。四十七士が一人一人、各地で誉め称えられた中で生活を始めることでしょう。
しかし、四十七士すべてが清く正しく生き永らえると、誰が言えましょう。その中でたった一人が、出来心、あるいは魔が差して、不覚にも法を犯したといたしましょう。世間はなんと申しましょう。『あの四十七士の誰それが』と必ず四十七士が持ち出されます。汚名はその者一人にはとどまらず、常に四十七士すべてに振り被ってくるのです。せっかくの忠義に大きな傷がつく。
 だから、ここで見事に死することによって、人々の心の中に見事に生き続けるのです。しかも、切腹は、打ち首や獄門と違い、武士の誉れ。
『見事に咲いた花なら、見事に散らしてやるのも武士の情け』
私は、法を枉げずに、情けを注ぎました。
よって、切腹させてやることが、妥当だと判断する。

私は、この判例において、法の解釈・運用の実務ということについて考えさせられました。
裁判官たちも、色々と考え、苦心されたでしょうが、今後もたとえ間違うことがあるとしても、神様でもなく、コンピュータでもなく、事実を見つめて、法律と一般社会通念とのバランスを計りながら、人が人を裁くことが必要なのではないでしょうか。
 なぜなら、法に情けを注げるのは、人しかいないのだから。

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コメント

研修会、お疲れ様でした。
 
ソクラテスメソッドは、緊張感があって良いですcoldsweats01

取り上げた判例は、①「責任無能力者を監督する法定の義務」を負っているか、②その義務に違反したか、の2点がポイントかなと思いました。
最高裁が、①の義務を負っていないと判断したことを、どのように考えるかという趣旨ですよね。

教授が、他支部でも活躍することを願っています。

投稿: 小司隆信 | 2016年6月27日 (月) 15時43分

>最高裁が、①の義務を負っていないと判断したことを、どのように考えるかという趣旨ですよね。

そういうことですね。
私個人としては、714条1項但書きを適用するのが妥当ではなかったかと思っています。

懇親会の後、2次会に行きましたが、FさんもW君も2次会の席でもずっとこの話をしていました。
2次会でもずっと研修会の話をしているって珍しいでしょう。
テーマが良かったのと講義も良かったのかな!

>教授が、他支部でも活躍することを願っています。

前に本会の会長に1講義60万で受けると言っておいたのですが、
なしのつぶてだなあ。

投稿: 西川博和 | 2016年6月27日 (月) 17時04分

伝説の鉄腕稲尾baseballを連想させる連続登壇ありがとうございました。memopenpunch
今回はプロフェッサーとニューリーダーの鉄桶のフォーメーションsign02梅雨空に爽やかなひょうきん決定戦。

JR事故に端を発した、世間の耳目を集めた裁判。その過程を理知的かつ演繹的な賢察で噛み砕き、人間味溢れる深い洞察で咀嚼した西川流論考。二律背反なパトスとロゴスを止揚した判決を、余分な夾雑物を濾過し、敷衍して鮮烈に読み解いた、讃歎に値する珠玉の講義でした。shine

投稿: ひらやまてつお | 2016年6月27日 (月) 17時20分

ひらやまさん
身に余るほどの賛辞をありがとうございます。
まあ、あんまり、おだてられると木に登ってしまうので。

でもまた、やろうかなhappy01

投稿: 西川博和 | 2016年6月27日 (月) 17時30分

研修内容の変更があり、急遽引き受けていただきありがとうございました。
次回は瑞浪のT名誉教授にお願いしてみましょうか。

投稿: 吉村 | 2016年6月29日 (水) 18時20分

>研修内容の変更があり、急遽引き受けていただきありがとうございました。

どういたしまして、研修部のお役に立ったなら、うれしいです。

>次回は瑞浪のT名誉教授にお願いしてみましょうか。

それは、なかなかいい考え!
しかし、名誉教授は、レア出勤なので、うまく都合がつくかどうか、それが問題ですね。

投稿: 西川博和 | 2016年6月29日 (水) 18時41分

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